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昏睡(KONSUI)1

2011/07/19 Tue 10:49

    昏睡1



               1


「僕は、意識不明の女性にしか感じないんです。
 そうですね、今まで経験した女性は全て意識不明の女性ばかりですね。
 いえ、そーいう状態の女性が好きだって事ではなくって、要するにそんな状態の女性としかできないって事ですよ。
 つまり僕は、いわゆる“キモい”と呼ばれる人種でしてね、自分で言うのもなんですが凄く不細工でしょ(笑)
 だからね、意識不明の女性としかできないんですよね・・・・」

 埃っぽい国道沿いのファミレス。
 田んぼに囲まれた田舎町のこの店で、取材を始めて1時間。その間、客は1人もこの店を訪れていない。
 私は、饒舌なA氏の話しを延々と聞かされながら、いつ本題を切り出そうかとチャンスを伺っていたのだった。


 今回、ひょんな事からこの「昏睡レイプ魔」のネタを掴んだ。
 今まで、女だからと大きなヤマを踏ませてもらえなかった私は、自力で掴んだこの大ネタに熱くなっていた。
 女子大を卒業してから2年、男もエステも返上し、下積み修行に明け暮れる毎日の中でやっと自力で掴んだネタだった。なんとしても、この女性の敵である「昏睡レイプ魔」の悪質極まりない手口を暴き記事にしたい。女だからこそ暴いてやりたい。
 そんな怒りと焦りが私に勇気を与え、女1人では危険と知りながらも、私は単身で昏睡レイプ魔の常習犯であるA氏に取材を試みたのであった。

 A氏。38才、独身。
 この現在無職の元セールスマンは、酒とパチンコに明け暮れる自堕落な生活を送っていた。
 取材を進めて行くうちに、昏睡レイプ魔の重要人物であるA氏がアパートの家賃も払えないくらいに生活に困っているという情報を入手した私は、A氏に取材料として3万円支払うと言う条件を切り出し、見事A氏の取材に成功した。

 取材はA氏が指定した町外れのファミレスで行なわれた。
 私は昏睡レイプの常習犯だと噂されているA氏とは、いったいどんな凶悪面をしている人物なのかと内心怯えていたが、しかし会ってみるとA氏はそこらへんにいる普通の親父だった。
 しかし、店内に入って来るなり、A氏が私に向けた視線は背筋も凍るほどに不快感極まりないものだった。A氏のその目は明らかに私を1人の女として見ている目であり、まるで獲物を狙っているハイエナのようなそんな目付きなのだ。
 私は、A氏のそんな視線に襲われながら、女1人でノコノコと取材に来た事を後悔した。そして、この先まともな取材ができるのだろうかと言う不安に襲われたのだった。
 そんな私の怯んだ様子をA氏は察したのか、「お姉さん1人で来たんですか?」と、A氏は私を子供扱いするかのようにせせら笑いながらそう言った。
 私はここで舐められてはいけないと動揺を隠し、余裕の笑みを浮かべながらA氏に名刺を渡した。
 するとA氏は私の名刺を受け取るなり、それをわざとらしく床にヒラリと落とした。
「あぁ、これはこれは失礼・・・」
 そう言いながらA氏はテーブルの下に落ちた私の名刺を拾おうと、素早くテーブルの下に潜り込んだ。
 私は、一瞬、A氏のそのわざとらしい行動に何の意味が隠されているのかわからず、そのまま黙って席に付いていた。
 が、テーブルの下に潜り込んだままのA氏がなかなか出て来ない事に「はっ」と気付いた私は、慌ててテーブルの下を覗き込んだ。
 薄暗いテーブルの下に潜んでいたA氏と目が合った。
 A氏は私の目をジッと見つめながら「お姉さんの足・・・すごく綺麗ですね」と、濁った目でニヤリと笑うと、私のヒールの踵の傍に落ちていた名刺をソッと摘まみ上げ、ゆっくりとテーブルの下から這い出して来たのであった。


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「このクスリを知ったのは、僕が高校生の時です。
 高校3年生の時でしたかね、地元の先輩に誘われて居酒屋でバイトした事があるんですよ。
 その先輩ってのは、クラブでDJしていたんですけど、なんか色々と問題がありすぎてクラブをクビにされちゃったんです。
 その問題ってのも、まぁ、このクスリが原因なんでしょうけどね・・・・」

 取材を始めて1時間、私がこの取材のキーポイントである「クスリ」について追及すると、A氏は何の躊躇いもなくその饒舌な舌をペラペラと動かし始めた。

「で、僕はその先輩に誘われて居酒屋で皿洗いのバイトなんかしてたんですけど、ある時、先輩に裏の通路に呼び出されてね、『閉店後にスゲェ事させてやるから帰らずに待ってろ』、って言われたんです。
 その日は、僕、12時であがりだったんですけど、先輩にそう言われたから仕方なくラストまで残ってたんですよ・・・。
 そしたら、2時くらいになると、店長とかみんながゾロゾロ帰り始めて、厨房の隅で先輩待ってた僕まで店長なんかに「後片付けヨロシクね」なんて言われちゃって、(あっ、こりゃあ先輩に騙されたな)なんて思ってたら、いきなり先輩が『よしよし』って笑いながら厨房に入って来たんです。
 それで、先輩はニヤニヤ笑いながら、僕を居酒屋のホールに連れて行きました。
 店はもうとっくに閉店してましたから、ホールにお客さんは誰もいないし、のれんも下ろしてありました。
 先輩は、ホールの一番奥にある座敷へ走って行くと、僕に向かって「早く来い!」と手を振りながら嬉しそうにワクワクしていましたね。
 僕は『なんですかいったい・・・』ってブツブツ文句を言いながら先輩が呼んでいる座敷に行ったんですが、その座敷を覗いて驚きました。
 なんと、お姉ぇ系のギャルがグーグーと鼾をかいて寝ていたんですよ・・・・
『誰ですか?』
 僕は驚いて先輩に聞きましたよ。
 すると先輩はズカズカと座敷に上がり込んで、完全に寝てしまっているギャルを抱き起こしながら、『誰って、客に決まってるじゃん』と笑ったんです。
 その時にね、先輩はそう言いながらそのギャルのオッパイをグニョグニョと揉んでたんですよね・・・・
『それ、ヤバいっすよ先輩・・・目を覚ましますって・・・』
 正直僕は慌てましたよ。
 だって僕はまだその時、そのクスリの事を何も知らなかったんですから。
 先輩は『大丈夫だ、ゼってぇに起きねぇから』って言いながら、僕にそのギャルの足を持てって言うんです。
 どこに連れて行くんですか?って僕が聞くと、先輩は『こいつのツレが戻って来たらやっかいだからトイレに運ぼうぜ』って言ったんです。
 もうその時には先輩が何を企んでいるのかピーンと来ました。
 でも、これって犯罪でしょ?
 だから僕が『ヤバいっすよ・・・』ってギャルの足を持つのを躊躇っていたら、先輩が例のクスリを僕に見せてくれたんです。
 ええ、先輩がポケットから出したのは錠剤でした。
 何錠持ってたかまではわかりませんでしたけど、カメラのフィルムの筒の中にピンク色の錠剤がジャラジャラしてましたから、多分、10錠くらいはあったんじゃないですかね・・・
 で、先輩は僕にその錠剤を見せながら言ったんです。
『この女には、これを砕いたモノを酎ハイに混ぜて飲ませてるから絶対に起きないよ』って。
 僕はそんなクスリに興味津々になっちゃいましてね、すぐに『なんですかそのクスリ?』って聞きましたよ。
 だってそのギャル、先輩がどれだけオッパイ揉んでても全く起きる気配を見せないんですもん、正直言ってそのクスリの効果には驚きですよ。
 すると先輩も、あんまりそのクスリの事には詳しくなかったみたいで、クスリの名前とか成分とかは説明しないで、とにかく『このクスリを飲むと、3時間くらいは何があっても目を覚まさないんだ。原爆が落ちたってゼッテェに起きないよ』って、自慢げにそればかり言ってました。
 僕はそんな先輩の言葉を信じてギャルの足を持っては、ギャルをトイレに運び込みました。
 その時、僕はギャルの両足を両手で持ってたんですけど、運んでるギャルのミニスカートの中が丸見えでね、パンツかもバッチリ見えるんですよ。クッキリとした食い込みまで。
 で、ほら、僕はそん時はまだ童貞だったんですよね。
 だから女の人の生のパンチラとか見るのも始めてだったし、っていうか、実際、女の人に触るのも始めてだったんですよね。
 だから、ギャルを運んでるとジーンズに勃起したチンポが擦れるんですよ。もうイっちゃいそうでしたよ」


 A氏は2杯目のコーヒーをズルズルと啜りながら、楽しそうに喋っている。
 しかも、「勃起」という言葉をいやらしく強調しているのがみえみえだった。
 そんな彼には罪の意識はまったくないらしく、それはまるで武勇伝を語っているようにも見えた。


「っで、先輩はトイレの個室の中にギャルを運び込むと、ニヤニヤ笑いながら服を脱がせ始めたんです。
 僕は始めてでしたし、やっぱり怖かったですから、突っ立ったままそんな先輩を見てただけなんですけど、でも、さすがに先輩がギャルのパンツを下ろし始めた時には、おもわず僕も身を乗り出してソコを覗き込んでしまいましたよ・・・」

 そう話しているA氏の表情がいきなり変わった。
 A氏はその濁った瞳の奥をいきなりギラギラと輝かせると、わざとらしく声を潜ませこう言った。


「その時ね、僕は女の人の性器ってのを始めてみたんですけど、正直言って気持ち悪かったですね。
 僕が彼女の背中を押えてると、先輩が彼女の股を開いてね、アソコを指でグチャグチャと弄るんですよ。
 で、『見てみろよ、こんなに濡れてるぜ・・・』って言いながら、アソコを僕に見せて来るんですよね・・・
 なんかグニャグニャしてて、モジャモジャと毛が生えてて、それに、変なニオイがしたんですよね、そのギャルのアソコ。
 そのニオイってのはね・・・
 う~ん、なんて表現したらいいのかなぁ・・・
 わかるでしょ、お姉さんも同じ女なんだし、アソコのニオイ・・・・」


 A氏はそこまで言うと、ニヤニヤと笑いながら私に同調を求めて来た。
 確かに、信憑性の濃い記事にするにはA氏の細かな感情を聞き出す必要があるのだが、しかし、これはA氏が意図的に仕向けた性的なセクハラだ。
 こんな変態にだらだらと関わっている暇はないと思った私は、それをサラリと流すかのようにして話しを元に戻そうとした。
「それで、その先輩と2人でトイレでレイプしたんですね?」
 素早くそう質問する私は簡潔に事実の確認に迫った。


「うん。ヤッちゃいました。
 童貞喪失がトイレで昏睡オンナをレイプ!なんて悲し過ぎますよね(笑)
 でもね、あの時、凄く気持ち良かったんですよ。
 それから少しして、初めてソープランドで正常なオンナともヤったんですけどね、でも、あのトレイで先輩とヤった昏睡レイプとは比べ物になりませんよ。
 正常なオンナなんてうるさいし面倒臭いし、でもってソコは舐めるなとか早くイってとかって文句付けて来るでしょ、そんなのに比べたら昏睡したオンナの方が全然いいですよ。
 それで、僕、昏睡レイプが癖になっちゃったんです・・・・」


 私は、ソープランドというものには詳しくはないが、しかし、プロの商売女が、そう易々と「ソコは舐めるな」や「早くイって」などと言うものなのだろうか?とふと疑問に思った。
 そう思いながらも、私はそんなA氏の変態的な笑顔を見つめながら、同時に、この男には何か性的な問題があるのではないか?とも疑問を持った。
 それが、今回の「昏睡レイプ魔」という記事にどれだけ関係するかはわからなかったが、しかし、「昏睡レイプ」という異常犯罪の実態を突き止めるという意味では、A氏の性癖は重要なのではないだろうかと私は思った。
 そこで私は、A氏の内面的な部分を探ってみる事にした。

「昏睡している女性との性行為で、あなたはどこに一番魅力を感じますか?」

「魅力かぁ・・・・・
 そうですねぇ・・・・やっぱり好き放題に相手を支配できるって事ですかね・・・・
 だって何やってもいいんですよ。相手はグーグーと寝てるから何をされたって怒りませんからね。
 正常な女が相手だと、恥ずかしくってできないような事が昏睡している女だと好き放題にできるんです。
 これって素晴らしいですよね」


「恥ずかしくてできないような事というのは具体的にはどんな事でしょう?」

 私はA氏の目を真正面から見つめながら、更に突っ込んで聞いてみた。

「・・・えっ?、ここで言うの?・・・恥ずかしいなぁ・・・・」

 A氏は照れくさそうにニヤニヤと笑いながらも、しかしその濁った瞳の奥に、再びギラギラした力を宿しながら、嬉しそうに語り始めた。

「まぁ、つまり、僕は、こんな事を綺麗なお姉さんの前で言うのも恥ずかしいんだけど、包茎なんですよね。
 それがコンプレックスになっちゃってるんだけど、でも、相手が昏睡してたら包茎だろうと短小だろうと関係ないですよね。
 正常な女に包茎のおちんちんを舐めてもらうのはちょっと気が引けますけど、でも、相手が昏睡してればね、チンカスだらけのおちんちんだろうとおかまいなしですよ(笑)」

「って事は、昏睡してても、その・・・ソレはできるわけですか?」
 さすがに「フェラ」という言葉は口に出せなかったものの、私は驚きながら聞いた。

「ソレってフェラの事?・・・
 当然ですよ、そんなの口を広げさせて突っ込んじゃえばいいんですもん・・・・
 でもね、中には時々いるんですよね、昏睡してるくせにペロペロと舌を動かす女が。
 あれは正直言って堪りませんよ、大興奮です(笑)
 この間の女子高生がそうでしたね。
 鼻鼾をかいている癖して、口の中にチンポを入れたとたん、モグモグとしゃぶり始めたんですから驚きましたよ。
 おもわず口の中に射精してしまいましたよ(笑)」

 私は、この醜い男の恥垢がびっしりと詰まった包茎ペニスを想像し、それを銜えさせられた時の自分をリアルに思い浮かべながら吐き気を催した。
 しかも、相手は女子高生だと満足げな表情で平然と言ってのけるこの男に、私は同時に怒りを覚えた。


「あと、撮影ですよ。撮影。
 正常な女だとなかなか撮影なんかさせてくれませんよね。
 でも、昏睡オンナなら取り放題ですよ、しかも無料で(笑)」

 私はそう嬉しそうに笑うA氏に、その怒りを悟られぬよう必死で右手の震えを抑えながら静かに息を吸った。
 そして冷静さをゆっくりと取り戻しながら更に質問を続けた。

「毎回、撮影はしているんですか?」

「んん・・・・
 そうですねぇ、計画を立てて昏睡させた時なんかは、ほぼ全部ビデオに収めてますね。
 突発的な場合は無理ですから、それが残念で仕方ありませんよ」

「そのビデオテープは御自身で保管しているんですか?それともどこかに流出させるとか・・・」

「ははははは、さすがに流出はヤバいでしょ(笑)
 そりゃあ、時々、ソレ系のネットなんかでね、趣味の人達にワンシーンだけを特別に公開したりする事もありますけどね、でもそれで足が付いちゃったら元もこうもありませんから、しっかりとモザイク掛けて慎重にやってますよ。
 ・・・まぁ、ほとんどが僕の宝物って感じで秘密の倉庫に眠ってますね。
 凄く綺麗な看護婦さんとか、超激カワな女子高生のビデオなんかが大量にありますから、本当は金にしたいんですけどね、でもさすがにそれはヤバいですよ・・・」

「そのビデオは主にどんなシーンが映っているんでしょうか?例えば、彼女達が昏睡する以前の映像なども映っているんでしょうか?」

「えぇ、もちろん。
 ただ黙々とヤっちゃってるだけのビデオなんてつまんないですからね、彼女達が昏睡させられる前に隠し撮りしていた映像なんかも一緒に収録してます。
 そりぁね、すんごい綺麗な人妻なんかが子供と公園で遊んでる隠し撮りのシーンの次にね、いきなりその人妻のオマンコなんかがバーンと出て来たりするんですから、こりゃあ、かなりレベルの高いシロモノですよ。
 女子高生なんてグーグーと鼾をかきながら、パンツのシミまで曝け出してカエルみたいに股開いちゃってるんですから、もう隅から隅まで撮影し放題ですよ」

 私はレポート用紙にA氏のそんな言葉を走り書きしながら、こんな危険な男をこのまま社会に野放しにしておいていいのかと怒りでペンが震えた。
 しかし、そんな私の怒りはこの時点ではまだ可愛いものだった。
 この後、私のこの激しい怒りは次第に恐怖へと変わっていくのである。


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 包茎と言うコンプレックスから、女性に対して内向的になったA氏。
 そんなA氏は、ある時、バイト先の先輩から「クスリ」を教えられ、そのクスリを飲まされて昏睡した女性をレイプする事に快楽を覚えていった。
 これがA氏が昏睡レイプ魔となった経緯だ。

 では、その「クスリ」とはいったいなんなのか?
 今回の取材で一番明らかにしたいクスリについて私は聞いてみる事にした。

「あのクスリは誰でも簡単に手に入りますよ。
 っていっても、さすがに薬局とかには売ってませんけどね(笑)
 ネットでも買えますよ。
 でも、ネットで売ってるようなブツはあんまりキキメがありませんけどね。
 クラブなんかでも取引されてるけど、まぁ、そんなのもガセネタではないですけど、あーいう場所で取引されてるのは、いわゆるマゼモノってヤツが多くてね、効くには効くんだけど、でもあんまり効果は期待はできませんよ。
 純粋なマジネタを手に入れたいんだったら、ソレ系の店で買うのが間違いないですよ。
 えっ?その店はどこかって?
 冗談じゃないですよ、それ言ったら僕、東京湾でプカプカですよ(笑)
 値段?
 僕だったら1粒5千円で手に入ります。僕の場合は元締めから直で買ってますからね。
 でも、これが市場に出回ると、どうかなぁ・・・・
 何人ものバイヤーの手に渡るから、1粒1万円くらいに跳ね上がるんじゃないですかねぇ・・・
 でも、それでも安いもんですよ。たった1万円で好き放題ヤリたい放題できるんだから(笑)
 キキメの時間ですか?
 まぁ、これも相手によって変わるんですけど、酒なんか飲んでる状態だと持続力は長いですよね。
 アルコールが入ってたら、だいたい4、5時間は絶対に目を覚ましませんね。
 シラフの場合だったら3時間は大丈夫ですね」

 A氏はタバコの火を付けながらそう話し、2口しか吸っていないまだ長いままのタバコを神経質に消すと、すぐにまた新しい煙草に火を付けた。
 そんな不可解な行動を繰り返すA氏の灰皿には、長いまま半分に折れたシケモクが山のように溜っていた。
 そしてA氏は再び煙草に火を付け始めると、静かに煙を吐きながらこう話しを続けた。

「あのクスリってのはね、女を昏睡させるだけじゃなくて他にも効果があるんですよ・・・
 実はね、あのクスリには媚薬も含まれてるらしくてね・・・なんと、女を眠らせた状態で感じさせちゃうっていう凄いクスリなんですよ・・・」

 煙草を銜えるカサカサの唇をニヤッとさせながらA氏が笑った。
 A氏のそのあまりにも不気味な笑顔に、私は一瞬背筋が寒くなった。
 私はそんなA氏の気味の悪い目線から少しだけ視線をズラしながら質問した。

「感じるという事は、意識があるという事ですか?」

「みたいですね。ただし、言葉を聞き取ったりとか、何をされてるとかはわかんないみたいですよ。
 いや、実はね、僕、このクスリの事をもっともっと知っておいた方がいいと思いましてね、ある女友達にこのクスリの事を話して実験台になってもらった事があるんですよ。
 あれは、5、6年前だったかなぁ、確か小泉さんがまだ総理大臣してた時ですから。
 まぁ、その子もそれなりに遊んでる子でしたからね、僕がそれをお願いすると、おもしろそうだからやろうやろうって言ってくれましてね・・・・
 で、さっそく彼女にクスリを混ぜたビールを少し飲んでもらったんですけど、彼女が言うにはね、それを飲んで5分程すると身体中がボーっとしてきたらしいです。
 なんか、周りで喋ってるヤツラの声がボワンボワンって響くような、まるでプールの中にいるような感じになったって言ってました。
 そんな声をぼんやりと聞いてたら急に眠くなってきたらしいですよね。
 で、あぁ眠いなぁ・・・なんて思った瞬間にはフッと記憶が飛んじゃったらしいです。
 その時にはね、彼女、そのままテーブルの上にコテって倒れてました。
 そうですねぇ、彼女の意識が飛ぶまでに10分程度じゃなかったですかねぇ・・・・」

 A氏はそう言いながら再び長いタバコを大量の吸い殻が溜る灰皿に押し付けた。
 そんな灰皿から1本の吸い殻がコロッと落ちると、A氏はファミレスの厨房に向かって「シゲさーん!灰皿取っ替えて下さーい!」と大きな声で叫んだ。

 私は、A氏から聞いた実験台の彼女の話しを素早くレポート用紙に書き込みながら、この実験台にされた彼女から直接話しを聞いてみたいと思った。
 それをA氏にお願いしようとした時、店の奥から大きな男が灰皿を持って現れた。
 男はこの店の経営者らしく、A氏とは古くからの友人らしい。
 男はA氏の前に灰皿をコトンっと置くと、「オマエ、タバコ吸い過ぎだよ」とA氏に笑いかけ、同時に私にニコッと笑いかけると、そのまま店の奥へと消えて行った。
 この店には他の従業員はいないらしく、その男は油で汚れたコックの衣装を着ていた。

「ああ見えてもなかなか腕のいいコックなんですよ・・・
 この店は場所が悪いから客が寄り付かないだけでね、シゲさんが作るハンバーグ、なかなかのもんですよ。
 どうです?食べてみますか?」

 そんなA氏の言葉に、私は愛想笑いを浮かべながらゆっくりと首を横に振った。
 このファミレスは、確かに立地条件が悪いが、しかし客が寄り付かないのはそのせいだけではないらしい。
 私がこの店に来てから約2時間、その間、店内の床をガサゴソと這い回る大きなゴキブリを何度も目撃している。

「もしかしてダイエットしてるんですか?
 お姉さん、滅茶苦茶スタイルいいですもんね・・・・
 そのスタイル維持するの大変でしょ?」

 A氏はそう言いながら私の体を舐めるように見回した。
 とたんに私の背筋に寒気が走る。

「それに、綺麗ですよね・・・すっごく。
 モデルさんみたいですよ。
 なんか、知的なキャリアウーマンって感じがして、僕なんかとは住む世界が違うって感じがします(笑)
 やっぱり旦那さんなんかもジャーナリストとかだったりするんですか?」

 私は、A氏の卑屈な笑いに吐き気を覚えながらも、まだ独身ですから、っと、愛想笑いを浮かべた。
 本当は、こんな凶悪なゴキブリのような男に笑顔を向けるだけでも嫌気がさすのだが、しかし、取材というのは、いかに取材する側と取材される側とのコミュニケーションを円満にするかが大切なのだ。
 しかも今回の取材は、A氏にしてみれば一歩間違えば塀の中の住人になる恐れがあるわけで、それほどの危険を犯してまでも取材に応じてくれたA氏の機嫌をここで損ねさせるわけにはいかない。
 そんな私は、A氏からの質問には全て笑顔で対応するしかなかったのだった。

「へぇ~・・・
 お姉さん、こんなに綺麗なのに彼氏の1人もいないなんてもったいないですねぇ・・・・
 お姉さんほどの美人で知的な人だったら、弁護士さんとかお医者さんとかがホイホイ付いてくるんじゃないですか?」

 私はイライラしながらも、引き攣った笑顔でこう答える。
「今は、お仕事の事しか考えてませんから・・・・」

 するとA氏は、急にニヤニヤといやらしく笑いながら「欲求不満とかになりません?」っと声を潜めて私の顔を覗き込んだ。

 私は、そんなA氏にクスッと笑いかけると、「御想像におまかせします」っとその話しを流した。

 確かに、女子大を卒業してからと言うもの男とは全く縁がなかった。
 いや、その間、男との性交が全くなかったわけではないが、しかし、彼氏と呼べるような男とは出会ってもいなければ、又、見つける気も更々なかった。
 A氏がいう「欲求不満」。
 それがないと言えば嘘になる。が、しかし、今の私にはその欲求不満を仕事で発散させる術を持っていたため、それは然程の問題ではなかった。

 私は、まだニヤニヤといやらしく笑っているA氏を無視して再びペンを握った。
 そして、レポート用紙にペン先を静かに置くと、「その後、実験台となった彼女はどうなりましたか?」と真剣な表情でA氏を見つめ、その不潔な空気を一掃したのであった。

(つづく)

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