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おむすび親父1

2013/06/08 Sat 00:00

おむすび親父1



 びっくりするほどに長い屁が出た。いつものように軽い気持ちで放った屁が、まさかここまで長くなるとは思ってもおらず、その奇妙な初体験にただただ俺は驚くだけだった。
 その奇怪な音は約二十秒間続いた。途中で時計の針を見たため正確ではないが、しかし、私が咄嗟に時計の針を見ると『2』を示しており、そしてその音が止まった時には『6』を示していたため、少なくとも二十秒間はその音が続いていた事は確かだった。
 その音が鳴っている間、茶の間で向き合ったままの私と和恵は、全ての動作と仕草を停止されていた。何の前触れもなく突然鳴り出したその長屁に、二人はどうする事も出来ないまま見つめ合っていたのだった。
 音が止まると同時に静寂が流れた。臭いはなかった。一瞬、微かな臭いを感じた気はしたが、しかしそれはそう思い込んでいるためにそう感じただけの先入観に過ぎず、恐らくその一瞬の臭いは、剥き出された真っ赤な亀頭から発せられている饐えた恥垢の醜臭だろう。
 沈黙の中、突然その音が頭の中で蘇った。まるで録音していたかのように、さっきと全く同じ音が私の頭の中で鳴り出したのだ。その画用紙を破ったような奇天烈な音に胸底をくすぐられた私は、おもわず噴き出しそうになった。しかし和恵にはぴくりとも笑う気配はなく、冷たい目で私を見据えたまま「やめてよ」と呟いたのだった。
 
「やめてと言われても途中でやめられないよ。僕自身まさかあんなに長いとは思ってもいなかったからね」

 そうニヤニヤ笑いながら答えると、和恵は切れ長の目をキッとさせながら私を睨み、「違うよ。おならじゃなくてそっちよ」と、剥き出しになった私の下半身にチラッと目をやった。

「ああ、こっちか……」

 そう言いながら私は、未だ握りしめたままのペニスからソッと手を離した。
 ペニスは半円を描きながら飛び跳ね、メタボリックな下腹部にびたんっと打ち当たった。亀頭の裏側が蛍光灯に照らされ、『人』という字が刻み込まれた尿道口がギラリと濡れ輝いていた。

「しかしね……こっちも屁と同じでね、途中でやめられないんだよ……」

 そう言いながら再びペニスを握りしめると、私は胡座をかいたまま、正面で座る和恵に向かって擦り寄った。
 生尻が畳みに擦れてシャリシャリと鳴った。すると和恵も正座したままスリスリと後退し、そこに同じ距離を保った。

「なぁ……」

 そう呟くと、和恵は「無理」とキッパリ言った。

「じゃあ、ちょっとだけでいいからしゃぶってくれよ」

「いや」

「じゃあ、手だけでいいよ、すぐにイクか——」

「——いや。絶対にいや。触りたくもない!」

 その叫びに似た和恵の声にムカっときた私は、その声と同じくらいの勢いで「僕たちは夫婦なんだぞ!」と怒鳴り返した。

「私だってヤリたくない時があるわよ!」

「ヤリたくない時って、キミはいつもそうじゃないか! 昨日もその前も、ここ一ヶ月くらいずっと拒否し続けてるじゃないか!」

「だって本当にヤリたくないんだもん……」

「キミはヤリたくなくても僕はヤリたいんだよ。溜まってるんだよ。イライラするんだよ。男ってのはコレをあんまり溜めすぎると精神的に良くないんだよ」

「じゃあ風俗で抜いてきたらいいじゃない」

「そんなお金があればとっくに行ってるよ、ひと月一万円のお小遣いでどうやって風俗に行くんだバカ」

「……抜くだけだったら……別に風俗じゃなくてもできるでしょ……」

「だからだよ。だから僕はこうして恥を忍んでオナニーしてるんじゃないか、それなのにキミはそれを『やめろ』と言う」

「あっ、今ちょっとビッグダディの真似したでしょ?」

「ビッグダディなんて見た事ない!」

「ウソよ。あなたの寝室のテレビのHDに『ビッグダディ』が全巻録画されてるの見たもん」

「勝手に人のHDを見るな!」

「他にも見たわよ。あなた、毎週『サンデーモーニング』を録画してるわよね。それを消さずに保存してるわよね。もう五十個くらい録画されてるじゃない。あんなの大事に保存してどうするつもりなのよ」

「そんな事、キミには関係ない!」

 そう怒鳴りながら私は和恵の左頬を引っ叩いた。小気味良い破裂音が響くほどにおもいきり引っ叩いた。
 和恵は一瞬ビクっと肩を跳ね上げて驚いた。大きな目をギロリとさせながら上目遣いで私を睨んだ。その大きな目にはうるうると涙が溜まっている。 
 やり過ぎたとすぐに反省しながらも、「あのね和恵——」と諭すように私が話し掛けると、和恵は子供のようにプッと頬を膨らませ、いきなり私の太ももに手を伸ばしては、その上で萎れていた薄ピンクのパンティーを奪い取ろうとした。
「やめろ!」とそれを躱した私は、すかさず和恵の細い手首を掴んだ。そしてその手を後に回し、あっという間に和恵の細い体を畳に組み伏せた。
 因に私は現役の警察官だ。全国逮捕術大会の組み技部門では二回準優勝を勝ち取っている。

 うつ伏せにされた和恵は、畳みにバタバタと足を鳴らしてもがき始めた。

「離せよ! オナニーしたけりゃAV見ればいいじゃねぇか! どうして私のパンツなんか洗濯機から持ち出すんだよ変態!」

 そう喚き散らす和恵を押さえ付けながら、私は「ああ変態だとも!」と怒鳴りつけた。

「確かに俺は変態だ、だけど正常でもある。俺はこういう人間なんだ。それ以上のものもないし、それ以下でもない。おまえは俺を変態だというけれども、俺はそうとは思わない。だけどおまえがそう言うならそうすればいい」

「ビッグダディの真似ばっかしてんじゃねぇよジジイ!」

「ああ確かに俺はジジイだ。十八歳のおまえから見れば四十を過ぎた俺はジジイの何者でもない。それ以上のものもないし、それ以下でもない。そんなジジイだからこそサンデーモーニングのメガネの女子アナに欲情してるんだ。彼女があのクレヨンで手書きしたフリップで説明しているシーンを見てはオナニーしてるのさ。そりゃあ時には、『あっぱれ!』と唸る張本でイッてしまう失敗もあるが、それでも俺はそれを失敗だとは思わない。だけどおまえがそれを失敗だと言うならそれはそれでいい」

「意味わかんねぇ事言ってんじゃねぇよバカ! 離せよバカ! 私のパンツ返せよバカ!」

「離さないバカ! パンツ返さないバカ!」

 私はもがく和恵の後頭部に向かってそう叫ぶと、畳に和恵を押し付けたままタンスに手を伸ばし、二番目の引き出しの中から黒い布テープを取り出した。

「キミはいつまで経ってもヤンキーっ気が抜けないんだな……そのキレた時の汚い言葉遣い。三年前、北千住の駅前のコンビニでキミと初めて出会った時も、確かキミはそうやって汚い言葉で私を罵っていたよな……」

「あれはテメェが私のスカートの中を覗いてたからだろ」

「うん。確かにそうだった。確かにあの時、僕はキミのスカートの中を見た。だけど、あれは決して覗いたわけじゃない。あれはキミが僕にパンツを見せたんだ」

「アホか!」

「アホじゃない。キミはアホというかも知れないがアホじゃない。よく思い出してみろ。あの時キミは、あのバカ面した金髪の女の子達とバカみたいに短いスカートを履いて、コンビニ前のベンチの上でバカみたいなヤンキー座りをしていた。そこに私がたまたまやって来て、そのベンチの前に車を止めたんだ。必然的に私の目にはキミのM字に開いた股間が映った。するとそれに気付いた金髪のキミ達が突然怒り狂い、まるで高崎山の猿が車内の人間に襲い掛かるが如く私の車に体当たりして来たのだ。『ざけんじゃねぇ』とか、『上等だよ』とか、日本語の使い方を著しく間違えながら、その惨めな中卒ひょうたん頭をぶら下げてね」

「ざけんな! あん時テメェ、車の中から写メ撮ってたじゃねぇかよ!」

「ああ、ごもっとも! 撮ってたとも! キミのパンツに浮かんでた黄色いオリモノのシミまでしっかりと撮ってたさ! そう僕が自分で白状するんだからキミは撮ってたと言えばいいさ!」

 そう叫びながら黒い布テープをビビビビビッと剥がすと、その音に気付いた和恵は、暴れまくっていた体を一瞬止めた。「なにすんだよ」と唸る和恵の唇の端から唾液が垂れ、それが糸を引いて畳みに落ちた。
 和恵の背中に跨がったまま「縛る」と短く告げた。すると再び和恵は暴れ出し、まるで居間でクロールの練習をしている少女のように両脚を交互にバタつかせながら、ニトリの通販で買った一帖4560円(税別)の琉球畳をビタビタと鳴らした。
 こんな輩には慣れていた。つい先日も、場外馬券場で酔って暴れていた高齢労務者を、華麗なる逮捕術によってわずか二秒で身動きできなくしたばかりだった。
 背中に押さえ付けていた両手を、バンザイさせるように頭上に持ち上げた。その両手首に黒い布テープをグルグルと巻き付け、がっちりと拘束してやった。

「やめろよバカ! 離せよバカ!」

「やめないよパカ! 離さないよパカ!」

 そう言い返しながら和恵の左肩を左膝で押さえつけた。右膝を立てながら、そのすっかり黒く戻った和恵の髪を鷲掴みにした。その髪を引っ張ると、和恵の首が斜めに海老反り、その小さな顔がグッと持ち上がった。
 和恵は、大きな瞳に涙を一杯溜めながら、悔しそうに私を睨んでいた。確かにこの女はどうしょうもない中卒バカヤンキーではあったが、しかしこのアイドル歌手並みに可愛らしい顔と、小柄ながらにグラビアアイドル並みのいやらしい肉体は、中年男の欲望を激しく掻き乱すだけの魔力を持っていた。

「……だけどね和恵、よく考えてみろよ。あの時、確かに僕はキミのパンチラを携帯で盗撮していた。それは認めよう。が、しかし、していたかもしれないけど、じゃあどうしてキミは、その三十分後、そんな盗撮男の車に乗ったんだね。さっきキミは、僕にパンツを見せたのではない覗かれていたんだと必死に主張していた。普通ならば、そんな変質者の車にほいほいと乗り込むわけがない。わずか三十分の間に、あれだけ激怒していたキミが、まるで恋人の如く私の車の助手席に乗り込んだのには、それなりの動機があるからだろ。その動機とは。それはキミが、この変態な僕という男に、変態行為をされたいという欲望があったからじゃないのかと、敢えて僕はそう思う」

 和恵は黙ったままジッと私を睨んでいた。そんな和恵の目の前には、狂ったように熱り立つ私のペニスがビンビンと脈を打っていた。
 和恵はヤンキー時代に培った眼光で必死に私にメンチを切りながら、「あん時、テメェが金をくれるって言ったからじゃねぇか……」と声を震わせた。

「確かにあの時、私はそう言ったかも知れない。いや、そう言ったとキミがそう言うのなら言った事にしてもいい。結局私とキミは、出会ってわずか三十分というスピード交渉により、国道沿いにある、『やんちゃな貴族』などという、実にムカっ腹の立つ名前のラブホテルにしけこんだわけだが、その時のキミとの契約は、確かキミの陰部を二万円にて撮影させてくれるという契約だったと思うが、間違いないね?」

「…………」

「黙秘権かね?」

「違うよ。目の前のコレが臭すぎて、息したくねえんだよ」

 和恵は、引っ詰め髪にされている顔をキュッと歪めながら、目の前に聳え立っている恥垢まみれの私のペニスを見てそう言った。
 ここは夫としてビシっと言ってやるべき所だった。事もあろうに夫のペニスを臭いと罵り、その挙げ句、臭いから息をしたくないなどと、まるで私だけに非があるかのように一方的に言われるのは実に心外だった。
 だから私は事実を伝えようと決心した。これは、できるだけ彼女の名誉の為にも言いたくはなかったのだが、しかし、ここまで言われてしまっては、私自身の名誉がズタズタに切り刻まれてしまうため、ここはしっかりと事実を伝えておくべきだと思ったのだった。

「つかぬ事を尋ねるが、キミは、なぜ僕のコレがこんなに臭いのか知っているのか? その理由を知っててそこまで言っているのかね」

「はっ?」

「『はっ』じゃないよ。その『はっ』ってのはやめろと再三言ってるだろ。憎たらしいんだよその『はっ』ってやつ。誰の真似をしてるんだ。キムタクか?」

「ちげぇよ」

「あ、それもキムタクだろ。その『ちげぇよ』ってのもキムタクだよね? どうしてキミは女なのにキムタクの真似するの?」

「そんな奴の真似してねぇし」

「出た、『してねぇし』。それもキムタクだ」

「っていうか、なんなんだよテメェ」

「またまた出ました、『っていうか』、おまけに『なんなんだよ』まで出ましたー」

 和恵は呆れるように顔を顰めながらも、凄まじい眼光でギッと睨んで来た。そんな和恵の鼻先にペニスを突き付けてやった。そして、「おいキムタク。どうして僕のペニスがこんなに臭いのか教えてやるよ」と、竹中直人の『笑いながら怒る人』風に嘲笑いながら、亀頭の先で鼻頭をツンツンしてやった。

「僕のコレが臭いのはね、何を隠そう、ついさっきまでキミのパンツにペニスを擦り付けていたからだよ。つまりこの強烈な臭いは、キミ自身の臭いなんだ。しかしながら、キミのパンツは本当に臭かった。いや、ここは敢えて、小さい『っ』を付けて『臭っさい』とまで言わせてもらうが、キミのパンツに染み付いていたあの黄身のようなオリモノは鼻がひん曲がらんばかりに臭っさかったさ。スルメイカとドリアンを練り潰した物をクロッチに塗り込み、その上からタイのナンプラーをチロッと一滴垂らしたような、そのくらい臭っさかっさた。因みに、この『臭っさかった』の発音は、『チュッパチャップス』でも、弁当屋の『ほっともっと』でも、どちらでも構いません」

「…………」

「どうしたの? 何で黙ってるの? 反論できないの?」

「…………」

「ま、いいだろう。誰だって自分に不利益な供述はしたくないもんさ。僕らの取り調べにおいてもね、被疑者は、『言いたくない事は言わなくてもいい』という権利が刑事訴訟法で認められているくらいだからね、ま、喋る喋らないはキミの自由だから好きにすればいいさ。但し、何も反論しないとなると、この勝負はキミの負けという事になるからあしからず」

 私はそう優しく微笑んでやった。事が事だけに、あまりその『ニオイ』についてムキになると墓穴を掘る可能性があるため、私は、そう穏便に事を治めようとしたのだ。が、しかし、和恵はその足立区という育ちの悪さのせいか、せっかく私がこの問題を穏便に終わらせてやろうとしたにも係らず、またしても私に喰って掛かっては、そのお互いにとってデメリットでしかないデリケートな問題をぶり返して来た。

「何が負けだバカ、このニオイはテメェのニオイだよバーカ! 自分では気付いてないだろうけど、テメェの足も脇も耳の裏も全部この酸っぱいニオイがプンプンしてんだよおむすび親父! 何がキミのパンツは本当に臭かっただよ、自分の脇の下を嗅いでみろよ、ミツカン酢みたいにスッペェからよ!」

 そう喚き散らす和恵に私はキレた。こうみえても私はメンタル面において非常に弱い。今まで、人にミツカン酢などと蔑まれた事など一度もなかった私は、その残酷な言葉に激しいショックを受け、たちまち自分を見失ってしまった。

「人に向かってスッペェとか言うな!」

 そう怒鳴りながら鷲掴みにしていた髪を振り下ろし、和恵の顔をおもいきり畳みに押し付けてやった。そして掴んだ髪を左右に激しく振りながら鼻を畳にグリグリしてやった。
 こんな拷問は日常茶飯事だった。いつも取調室でやっている事だった。人一倍プライドの高い私は、罪人如きに小馬鹿にされるとつい我慢できなくなり、戦前の特高警察を彷彿させるほどの拷問を与えてやるのだった。
 つい先日も、深夜の小学校の校庭に不法侵入し、生徒達が大切に育てていた花壇を滅茶苦茶に荒らしたという容疑者に、この鼻グリグリをしてやった。取調室の机に顔を押し付け、掴んだ髪をおもいきり左右に振ってやると、鼻をグリグリされたその七十代の老婆は、そのあまりの痛さから猛禽類のような奇声を上げ、素直にその罪を認めた。そしてついでに隣町の小学校の校長室に侵入しては『平成二年度・子供ソフトボール大会第三位』のトロフィーを盗んだり、中学校のプールに侵入しては全裸で水に浮きながら脱ぷんした事など、そんなどうでもいい余罪を六件も自供した。
 私は悲痛な拷問を和恵に与えながら、「罪を認めるか! 罪を認めるか!」と、アントニオ猪木風に二度叫んでやった。すると和恵も、「鼻が曲がる! 鼻が曲がる!」と、やはり二度叫び、再び琉球畳に両脚をバタバタと鳴らし始めた。
 ふと見ると、そんな和恵のスカートが乱れていた。首を亀のように伸ばしながらソッとそこを覗き込むと、黒いパンティーに包まれた豊満な尻肉がグニャグニャと歪んでいた。
 不意に私の胸底に、まるでビル火災の黒煙のような濃厚な興奮がモクモクと涌き上がって来た。私は迷う事なくその淫らな尻肉を鷲掴みにした。そしてパン生地を捏ねるように肉を揉みしだきながら、その黒いパンティーをスルスルと下ろし、「どっちが臭っさいか実況見分してみようじゃないか」と、怪しく笑ったのだった。

(つづく)

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