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1道端に捨てられた使用済みコンドーム



「チケットあるでぇ」
 お父さんくらいの年齢のおじさんがそう声を掛けて来ました。一昔前に流行ったDJ・hondaのキャップを被り、ヨレヨレのジーンズにサンダルを履いた、関西訛りのおじさんでした。
 その酒臭い息に、私はおもわず顔を背けてしまいましたが、だけど真由美は、「えっ!」と一瞬飛び上がり、異様に目をギラギラと輝かせながら「いくらですか!」と聞いたのでした。

 その男がダフ屋と呼ばれている事は知ってました。それが犯罪行為だという事も、高校二年生にもなればわかります。
 ジャニーG7のコンサートは、特にダフ屋が多い事で有名でした。会場のあちこちでは、「G7のメンバーが悲しみます! ダフ屋からは絶対にチケットを買わないで下さい!」などと、ファンクラブやスタッフが必死に呼びかけているほどでした。
 だから私は真由美のTシャツの袖をソッと引っ張り、「行こっ」と言いました。だけど真由美は、その酒臭いおじさんの前から動こうとはしませんでした。

 この日のコンサートは、相葉ケンイチ君の誕生日という大イベントが重なっていた事から、私と真由美はこの日のチケットを手に入れる事ができませんでした。
 なのに、なぜチケットを持っていない私と真由美が会場に来ているかというと、真由美は相葉ケンイチ君の熱狂的なファンだからでした。
 真由美は、頭がパンクしそうなくらい相葉ケンイチ君に狂っていました。だから真由美は、例え会場に入れなくても、せめてホールから相葉ケンイチ君の誕生日を祝いたいと言い出し、京本セイジ君のファンである私を強引に誘い、チケットも無いまま二人は会場にやって来たのでした。
 そんな会場には、私達と同じようにチケットが手に入らなかったファン達が大勢詰めかけていました。広いホールはグレーのケンイチTシャツを着た少女たちで埋め尽くされ、開演二時間前だというのに、早くも彼女たちは、涙ながらにハピバースデーの歌を合唱していました。
 そんな中、私と真由美はその酒臭いおじさんに声を掛けられたのでした。

 真由美とおじさんは、何やらヒソヒソと小声で話していましたが、しかし、暫くするとおじさんは、まるで苦虫を噛み潰したような顔で歩き出し、そのままホールの外に出て行ってしまったのでした。
 おじさんの姿が消えるなり、真由美は私の手を強く握りました。
「ユカリ、今いくら持ってる」
 私は、溜め息混じりに「六千円しか持ってないけど……」と答えながらも、「ダフ屋から買うなんてやめたほうがいいよ」と言ったのですが、しかし真由美は必死な形相で「お願い、貸して」と、更に私の手を強く握りました。
 あのおじさんは、通常八千円のチケットを五倍の四万円で売りつけようとしていました。
 真由美は一万円しか持っておらず、その一万円と私の六千円を足しても、まだ二万円以上も足りません。
「だから諦めよっ」
 私はそう言いながら真由美の手を引きました。そして「ライブモニターを観に行こうよ」と誘ったのですが、しかし真由美はどうしても諦められないらしく、さっきのおじさんの後を追って外に飛び出してしまったのでした。

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 会場の外にもケンイチファンは溢れかえっていました。『ケンイチ君お誕生日おめでとう』と書かれた巨大な垂れ幕の前では、ファンクラブの運営が新しいケンイチダンスの振り付けをファンたちに教えていました。
 そんなケンイチファン達で溢れかえる中を、真由美は必死になっておじさんを捜していました。
 そして、自販機の裏で女の子に違法チケットを勧めていたおじさんを発見すると、真由美はいきなりおじさんの腕を掴み、「私が買いますから!」と、大きな声で叫んだのでした。

 大声を出されて慌てたおじさんは、「わかった、わかった」と焦りながら、小声で「こっち来い」と言うと、そのまま歩き出しました。
 私と真由美は、会場の裏にある巨大な駐車場の奥に連れて行かれました。
 駐車場の奥にはだだっ広い河川敷が広がっており、遠くのほうで犬の散歩をしているお爺ちゃんの姿が小さく見えます。
「明日必ず振り込みますから」
 真由美は、そう必死な形相で料金後払いをお願いしました。
 しかしダフ屋が振込先など教えるわけがなく、逆におじさんは、バッグの中からメモとペンを取り出すと、そこに私達の名前と住所と電話番号を書けと言い出しました。
「私はいりません」と、それを断ると、おじさんは、「違う違う、あんたは保証人や。もしこの子が金を返さへんかったら代わりにあんたに払うてもらうさかい、あんたもそこに名前書いといてや」と、それがさも当然のように威張って言いました。
「お願いユカリ!」
 真由美は、悲痛にそう叫びながらも、既にそこに名前と住所を書き始めていました。
 もはや私も、そのメモに名前と住所を書かざる得なくなってしまい、渋々ペンを握ったのでした。

「利息は三日で一割や。貸したのは二万四千円やから、三日置きに二千四百円の利息がつくでぇ。よう覚えとってや」

 そう言いながらおじさんは、バッグの中からチケットの束を取り出すと、そこから一枚だけ抜き取りました。
「あんたはホンマにええんか?」
 おじさんは、私をチラッと見ながら言いました。
「結構です」
 私がそうきっぱり断ると、真由美は、まるで売人に覚醒剤をねだる覚醒剤中毒者のようにピョンピョンと飛び跳ねながら、必死におじさんの手からそのチケットを奪い取ろうとしていました。
「あー、待て待て、ちょっと待てや」
 おじさんは、チケットを摘んだ手を真由美の頭上でヒラヒラと振りながら、「その前に、御礼は」と笑いました。
「あっ」と気付いた真由美が、慌てて「ありがとうございました」とお辞儀をすると、おじさんはニヤニヤと笑ったまま「アホか」と吐き捨てました。
「取りあえず、ケツ見せぇ」
 おじさんは、濁った目をギラギラと輝かせながら真由美を見つめました。
 私と真由美は一瞬にして凍り付きました。
 ダフ屋と呼ばれるこのおじさんが危険な人である事はわかっています。こんな人からお金を借り、すんなりと個人情報を渡してしまう事が、どれだけ危険な事かくらい高校二年生にもなればわかります。
 ましてこのおじさんは、いやらしい事を求めてきました。こんな人の言い成りになれば、まさにウシジマ君に出て来るダメ人間達のようにズルズルと地獄に引きずり込まれ、人生が滅茶苦茶になってしまうのは火を見るより明らかなのです。
 私は真由美の手を引っ張りました。そして、「警察に行こ」と真由美の耳元に囁きました。
 しかし真由美は、脅えながらも私の目をソッと見上げ、「大丈夫。ホント大丈夫だから」と呟きました。
「でも、何されるかわからないわよ」
 声を顰めてそう言うと、真由美は引き攣った顔のまま、「大丈夫。私、こーいうの慣れてるから……それに……今日はケンイチ君のお誕生日だしね……」と呟き、静かに私の手を振り払ったのでした。

 もはや真由美は壊れかけていました。その目には、チケットを手に入れる為なら親でも殺しかねないといった、そんな狂気の輝きがメラメラと宿っていました。
(私、こーいうの慣れてるから……)
 真由美はそう言いました。
 真由美は、決して可愛い女の子ではありません。どちらかというとブスの部類です。中学生の時には、そのぽっちゃりとした体型から、『子豚ちゃん』と呼ばれていたくらいでした。
 それなのに真由美の周囲には常に男の子がいました。学校には真由美よりも可愛い女の子が沢山いるというのに、なぜかいつも真由美には男の子が寄り付いてくるのです。
 その理由は、明らかにおっぱいでした。
 真由美は大きなおっぱいをしていました。ぽっちゃり体型特有のぽてぽてとした柔らかいおっぱいです。
 しかも真由美は、頼まれれば誰にでもおっぱいを見せたり、触らせたりする子でした。例えそれが男子であっても、平気な顔をして「いいよ」と触らせてくれるため、それを面白がる男子達が絶えなかったのです。

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 それを真由美は、(こーいうの慣れてるから……)と言ったと思うのですが、しかし今回のコレは、男子生徒に胸を触らせると言った次元ではありません。一歩間違えばレイプされてしまうのです。
 恐怖に駆られた私は、どうしていいのかわからないまま、ただただソワソワしていました。
 真由美は駐車場の壁の隅にソッと寄り添うと、静かに私に振り向きながら「恥ずかしいから、あっち向いててよ」と、子供のように笑いました。
 私は身動きできず、その場に立ち竦んでいました。どうする事もできないまま、ただただジッと俯いていました。
「どうすればいいんですか?」
 そんな真由美の声が、河川敷から流れて来る生温かい風に乗って聞こえてきました。
「そこに前屈みになれや」
「……こうですか?……」
「そうそう。そのまんまスカート捲って、その黒いストッキングを下ろせや」
 おじさんのニヤニヤした声と共に、衣類がカサカサと擦れる音が聞こえてきました。
「……これで……いいの?……」
 そんな真由美の声を聞くなり、項垂れていた私の目が、無意識のうちに動いてしまいました。

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 サテン生地のピンクのショーツが、曇り空の明かりでテラテラと輝いていました。
「さすが女子高生や……ムチムチして、可愛いケツや……」
 そうニヤニヤと笑いながらそこを覗き込んでいるおじさんに、私は激しい嫌悪感を覚えました。
 おじさんはそこにゆっくりとしゃがみました。そして真下から真由美のお尻に顔を近づけ、まるで犬のようにクンクンと嗅ぎ始めました。
 それは異様な光景でした。まるで、ダウンタウンの『ごっつええ感じ』のコントに出てきそうなワンシーンでした。
 私は、こんなシーンを誰かに見られたら大変だと思い、慌てて辺りを見回しました。
 巨大な駐車場に人影はありませんでした。だだっ広い河川敷にも人らしきものは見当たりません。しかも二人は、駐車してある車とコンクリートの塀に挟まれている為、例え遠くに人がいたとしても、このシーンが見られる心配はありませんでした。
 そうひとまず安心した私でしたが、しかし、おじさんが真由美のお尻を撫で始めると、その安心が一気に恐怖に変わりました。
 そうです。誰もいない場所で死角に入り込んでいるという事は、ここで何をされてもわからないという事でもあるのです。ここは、大声を出しても、どれだけ助けを求めても、誰にも気付いてもらえないという非常に危険な場所だったのです。
 おじさんは最初からそれを計算していたのか、余裕の笑みを浮かべながら真由美のお尻を撫でていました。
 そして、「あらら、パンツにシミが浮かんで来たわ」と下品に笑うと、「見られてるだけで濡れて来たんか?」などと、いやらしい声で囁き、そのまま真由美のパンツの中に手を突っ込んだのでした。

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 おもわず私は「ひっ」と肩をすくめました。
 だけど真由美は、前屈みになったまま身動きしませんでした。抵抗する事も無く、黙っておじさんにお尻を向けていました。
「もう、ぐっちゃぐちゃやなぁ」
 おじさんはそう笑いながら、パンツの中でもぞもぞと手を動かしました。それでも黙っていた真由美でしたが、しかし、もぞもぞしていたおじさんの手が激しくなるにつれ、まるで赤ちゃんが泣き出す寸前のような、「ふん、ふん」という声を漏らし始めました。そして、その声のまま、「ユカリ……あっち行っててよ……」と唸ったのです。

「あっち行け」
 そうおじさんに追い払われた私は、そのまま逃げるように走り出しました。そして二台離れた車の影に素早く身を潜めると、大きく深呼吸しました。
 心臓のドキドキが止まりませんでした。真由美のパンツの中で蠢くおじさんの指を想像すると、目眩を感じるほどに胸の鼓動が早くなりました。

 私は処女ではありません。高一の時に一つ上の先輩に処女を奪われてから、今までに二人の男と付き合ってきました。
 その二人の男とはそれなりにセックスをしてきましたが、こんな野蛮なセックスは一度もした事がありませんでした。
 見ず知らずの中年男に野外でこんな事をされるなんて、私の中ではAV以外のなにものでもなく、あまりにも現実離れしていたのです。
 私は車の影に隠れながら、ひたすら親指の爪を噛んでいました。
 あらゆる妄想が浮かび、動悸、息切れ、目眩いに襲われていました。
 それらは恐怖からくる症状でした。
 だけど、しばらくするとその恐怖は好奇心へと変わり、そのシーンを覗き見したくて堪らなくなってきました。
(ダメよ……見つかったらどうするの……)
 そう自分に言い聞かせながらも、身を屈めた私は隣りの車に移動しました。そして息を殺して更に隣りの車の影に身を潜め、銀色のバンパーの端からソッと覗いたのでした。
 
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 そこでは想像を絶する光景が繰り広げられていました。
 いつのまにか真由美は全裸になっていました。おじさんの足下にしゃがみ、真っ黒なペニスを必死に咥えていたのです。

 私は亀のように慌てて首を竦めました。
 踞ったまま震えていると、会場の方からジャニーG7の新曲が風に乗って聞こえてきました。
 そしてその曲と、真由美が奏でる「じゅぷっ、じゅぷっ」という卑猥な音が混じり、たちまち私は悲しみに胸を鷲掴みされました。

 しかし、よくよく考えると、おじさんの股間で前後していた真由美の顔の動きは、強制的にさせられているとは思えませんでした。あの動きは明らかに自分の意思であり、真由美が率先してあの真っ黒な肉の棒にしゃぶりついているとしか思えませんでした。
 まさか真由美がここまでするとは思ってもいませんでした。元々ユルい女の子だという事はわかっていましたが、あんな気持ちの悪いおじさんのペニスを平気でしゃぶるとまでは思ってもいませんでした。

 見たくない。
 私の脳はそう拒否していましたが、しかし下衆な好奇心が、見ろ、見ろ、と急かしてきました。
 今までに、こんな破廉恥なシーンは見た事がありません。又、想像すらした事もありません。
 だから余計に好奇心が沸き、私は、まるでネットの死体画像を恐る恐る開く感覚で、再び銀色のバンパーの端から覗いてしまったのでした。

 おじさんは、足下にしゃがむ真由美をいやらしい目で見下ろしていました。
 そして、んぐっ、んぐっ、と喉を鳴らす真由美に向かって、「オメコしたろか?」と、ポツリと呟きました。
 一瞬、真由美は顔の動きを止めました。そのまま上目遣いにおじさんの顔をジッと見ていましたが、おじさんが「スッキリさせたろか?」と笑うと、ペニスを咥えたままコクンっと頷きました。

 真由美の口から巨大な肉棒がヌポッと抜けました。紫色の亀頭は、いかにも使いこなしていそうな不気味な色をし、どす黒い肉棒には無数の血管が厳つく浮かび上がっていました。
 真由美は、その唾液でギラギラと輝くペニスを、恍惚とした表情で見つめていました。
 それを覗き見していた私の心臓は、今にも口から飛び出してきそうなくらい、激しく暴れ回っていたのでした。

子豚5


(つづく)

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