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眠れない夜1

2013/05/30 Thu 18:04

眠れない夜1



 またしても眠れなくなった。
 薄暗い闇の中、私は天井をジッと見つめながら、ひたすら妻の寝息を聞いていた。
 尻の谷間はじっとりと汗ばんでいた。寝よう寝ようと思えば思うほどにイライラが増し、不意に大声で叫び出したい衝動に駆られた。
 このままこうしていても眠れない事はわかっていた。私はムクっと起き上がると、子猫のように丸まっている妻を跨ぎ、ベッドから滑り降りた。そしていつものようにプーマのジャージに着替えると、まるでひと仕事終えたコソ泥のようにモソモソしながらマンションを出たのだった。

 午前一時の住宅街。
 静まり返った闇の中に、一直線に伸びる白線が浮かび上がっていた。その白線に沿って歩き出すと、素足に履いた健康サンダルがヒタヒタと音を立て、その音だけが淋しく闇に響いた。
 近所でも有名なゴミ屋敷の角を曲がった。路上にまで溢れたゴミの中からいきなり二匹の猫が飛び出し、一瞬ヒヤッと背筋を凍らせながらも、その二匹の猫に激しい殺意を覚えた。
 暫く行くと、闇の中に蛍光灯が煌々と照らされたコンビニが見えて来た。
 また今夜もここに来てしまったのかとうんざりしながらドアを開けると、また今夜もここに来たのかとうんざりした顔つきの老店員が、しゃがれた声で「いらっしゃいませ」と唸った。
 いつものように雑誌にコーナーに直行した。ラックに並ぶ雑誌は昨日と変わっていなかった。昨夜も立ち読みしていた週刊誌を手に取り、昨夜と同じグラビアページの女の巨乳を眺め、そして昨夜と同じ微かな欲情を感じた。

 ここ四日間、私は、ほぼ同じ時間、ほぼ同じ場所にこうして立っていた。
 私は不眠症だった。二年ほど前から突然眠れなくなった。スムーズに眠れる時もあったが、ほとんどは、なかなか眠れない夜を過ごしていた。
 原因は不明だった。心療内科の先生は、「自律神経のバランスが狂い交感神経の緊張が異常に興奮しているのです」などと、何やら難しい事をブツブツ言っていたが、しかしそれを解消させる治療は何ひとつしてくれず、「とりあえずこれで」と、どこか投げ遣りに睡眠薬を処方してくれたのだった。
 そんな睡眠薬は、かなり強力なモノらしく、飲めば一時間以内にコロンっと寝てしまった。しかし、それを飲むと朝が酷く、激しい吐き気と強烈な頭痛に苦しめられた。
 そんな地獄を味わうくらいなら、いっその事眠らない方がマシだと思った私は、さっそく睡眠薬を止め、DVDと小説で夜を過ごすようにした。しかし、それらに没頭してしまうと一睡も出来なくなり、翌日の会社が、睡眠薬の副作用よりも更に酷い事になってしまうのだった。

 そんな頃、私は深夜のコンビニというオアシスを見つけた。
 それは、二ヶ月ほど前の事だった。深夜二時、何故か突然無性にポテトサラダが食べたくなった私は、近所のコンビニに行く事にした。その帰り道、何気にコンビニ前にある児童公園に立ち寄り、湿った夜草の香りに懐かしみを感じながらベンチで煙草を吹かした。
 部屋に戻ると、桜田順子主演の『玉ねぎむいたら』という、実に古臭いTBSドラマのDVDの続きを見ながら、ポテトサラダを貪り食った。すると、何やら急に眠気を感じ、私はそのままテレビの前で眠ってしまったのだった。

 それがきっかけとなり、私は深夜のコンビニに通うようになった。
 それからというもの、眠れない夜は近所のコンビニに出掛けるのが日課となり、どうでもいい雑誌を立ち読みし、食べたくもないポテトサラダを購入し、小一時間、コンビニ前の児童公園で佇むようになった。
 それで不眠症が完全に治ったわけではなかったが、しかし私は、それをしないと絶対に眠れなくなるという先入観に囚われてしまっていた。だから私は、眠れない夜はいつもコンビニに出掛けるのであった。


             ※


 日曜日の朝、居間でごろごろと寝転がりながらサンデージャポンとワイドナショーを交互に見ていた。リモコンを片手に、どちらかがCMになるとチャンネルを変えるというセコい動作をしながら、一人黙々と一時間くらいそれを繰り返していた。

 日曜日は暇だった。
 私たち夫婦には子供はいない。だから休日には家族揃ってどこかに出掛けるといった面倒臭い行事はない。かといって、夫婦でぶらりと街に繰り出し、『食べログ』で美味しいパスタの店を検索しながら練り歩くなんてこともなかった。
 既に私は五十歳という大台に乗っていた。歳の離れた妻も、気が付けばあと半月で三十四歳だった。
 結婚して十年、当初は、周りの者たちから『歳の差婚』などと持て囃され、私たちもすっかりその気になっていたものだが、しかし、互いに歳を取って来ると、今では逆にこの『歳の差』が、何かと障害になっていた。
 それは、ここ二年ほど前から特に酷くなっていた。
 まず、趣味やセンスが全く合わなくなって来た。食べ物もテレビ番組もいちいち好みが分かれ、起床と就寝の時間までも大きく違ってきた。そうなると、当然セックスの回数も減り、その内容も、まるで射精するだけのオナニーのように淡白なものとなっていた。
 そんな倦怠期の夫婦が、休日だからといって、わざわざどこかに出掛けるわけがなかった。
 だから日曜日は暇だった。
 何もする事がない私は、ただただ家でゴロゴロしているしかなかったのだった。

 暫くすると、サンデージャポンもワイドナショーも終わってしまった。この後は『アッコにおまかせ』か、と、寝転がったまま背伸びをすると、不意に背後から新聞がパラリと捲る音が聞こえた。
 背伸びをしたまま体を捩り、ソッと首を捻った。すぐ目の前に妻の足の甲がドンっと迫っていた。
 妻は真剣な面持ちで新聞の記事を読んでいた。いったい何をそんなに真剣に読んでいるのだろうと更に首を捻ってみると、いきなり薄紫のパンティーが激しく食い込んだ股間が目に飛び込み、おもわず私は、その久々の衝撃にクラっと目眩を感じてしまった。

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 妻は、片膝を立てたまま前屈みになっていた。その為、スカートは捲れ上がり、下半身が丸出しになってた。歪な体勢のせいか股間にパンティーが激しく食い込み、細くなったクロッチの両端からはツルツルの大陰唇がもっこりとはみ出していた。
 妻は、私が見ている事に気付いていないようだった。新聞の記事をひたすら真剣に目で追っていた。私はそんな妻の股間に微かな興奮を覚えながらも、そのツルツルの大陰唇に、どうしてわざわざそこの毛を処理しているのだろうかと不思議に思った。

 私たち夫婦が最後にセックスしたのは二週間ほど前だった。
 あの晩、かなり酔って帰ってきた私は、キッチンで洗い物をしていた妻に突然ペニスを見せつけた。その時の私のペニスは狂ったように勃起していた。
 なぜそうなっていたかと言うと、マンションのエレベーターの中で隣りの部屋の奥さんと同じになったからだった。隣りの奥さんは、色香漂う四十代のぽっちゃり女だった。エレベーターの中では軽い会釈をしただけだったが、しかし、エレベーターに乗っている間、私は得意の妄想で彼女を犯しまくっていた。
 エレベーターの壁に押し付け、背後からたぷたぷの胸を鷲掴みし、そして大きな尻にペニスをピストンさせながら、その尻肉を激しく揺らしていた。
 そんな、思わぬ所で興奮を得た私は、勃起したままエレベーターを降りると、部屋に戻るなりキッチンの妻に勃起したペニスを見せつけた。そして嫌がる妻を床に跪かせ、無理矢理フェラをさせたのだった。

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 ねっとりとしたフェラを存分にさせると、熱っぽくなった妻を居間の座布団の上に四つん這いにさせた。下着の上から局部に触れると、既に妻のそこは濡れており、いやらしい汁がクロッチにジワッと滲んだ。
 下着をスルリと下し、プルンっと飛び出した尻肉の谷間にペニスを捻り込んだ。いとも簡単にヌルリと滑り込んだペニスに、(この欲求不満女めが)と思いながら腰を振った。そして乱れる妻の背中を見ながら、さっきの隣りの奥さんを思い浮かべ、わずか五分も経たないうちに濃厚な精液を吐き出したのだった。

 その時は、妻のそこにはまだ陰毛がウヨウヨと生えていた。あの時私は、背後から結合部分を覗き込みながら(歳を取ると毛深くなると言うが本当だな)と思っていた為、そこに陰毛が生えていたのは間違いない。だからこのツルツルになった大陰唇を見た時、瞬時に浮気しているのではないだろうかと不安に駆られたのだった。

 十五も歳が離れているせいか、それは、常に私を脅かす不安材料だった。
 女の三十代と言えば、そろそろセックスが本格的に楽しくなって来る年頃である。にもかかわらず、夫の私は五十代。男の五十代と言えば、いよいよ性欲が減退し、妻とのセックスに対して精神的且つ肉体的苦痛を感じる年頃なのである。
 だから私は、いつ妻に浮気されるかと、そればかり脅えて暮らしていた。それは妻の肉体を奪われるという嫉妬心からの恐怖だけではなく、浮気イコール妻に捨てられるという恐怖であり、浮気した妻に捨てられた惨めな孤独老人を思い浮かべながら、この先の事までウジウジと考えてしまうのだった。

 ツルツルの大陰唇に激しい焦りを感じた私は、真剣に新聞を読んでいる妻に「ねぇ」と声を掛けた。すると妻はサッと膝を下ろした。そして記事を目で追ったまま「なぁに?」と呟くと、慌ててスカートを伸ばしては、剥き出しの太ももを必死に隠そうとしていた。
 私はソッと新聞を覗き込んだ。その新聞は、昨日、私が電車の中で拾って来た日刊スポーツだった。妻の視線の先には『中古車買いますブルータス』という赤い広告があった。
 私は、いったい妻は何をそんなに真剣に読んでいるのかと気になりながら、「炭酸が飲みたいんだけど」と聞くと、妻は「サイダーならあるよ」と言いながら、まるでその記事を隠すかのように慌てて新聞を閉じたのだった。
「じゃあサイダーでいいや」と私は言った。妻は、短いスカートを妙に気にしながら無言で起き上がると、畳に素足をヒタヒタさせながらキッチンへと向かった。
 そんな妻の背中を横目に、妻が見ていた新聞ページをソッと開いた。
『中古車買いますブルータス』の赤い広告を見つけると、その広告のすぐ横に、『夫の友人と不倫している私』と題した投稿告白文が綴られているのを見つけた。
 それは、いかにもヤラせっぽい投稿告白文だった。どうせ売れない三流官能作家が、安いギャラで無理矢理書かされているのだろう、その狭い枠は、やたらと「いやぁ〜ん」、「だめぇ〜ん」、「あああああああん、イクイク、イっちゃう!」といった幼稚な言葉で埋め尽くされていた。
 恐らく妻はこれを読んでいたに違いなかった。文学を愛する私にとっては、読むに値しないほどの駄文だったが、日頃小説といったものを全く読まない妻にとっては、このような『子供騙し』な投稿文が読みやすかったのだろう。
 私は、バカバカしい、と思いながら、指で弾くようにして新聞を閉じた。が、しかし、何もなかったかのようにゴロリと寝転がって天井を見上げてみたものの、どうにもそのタイトルが気になって仕方がない。
『夫の友人と不倫している私』
 そのタイトルを口の中で何度も繰り返しながら、ツルツルに剃られた不審な大陰唇を思い浮かべた。
 もしかしたら妻は浮気願望があるのかも知れないと思った。そして、やはり妻は欲求不満が溜まっており、私以外の誰かとセックスをしたいとおもっているのではないかと焦燥感に駆られた。

 暫くすると、妻が私に「はい」とサイダーを差し出した。
 そのサイダーは松金屋のエポロンサイダーだった。
 完璧主義者な私は、サイダーは三ツ矢しか認めていなかった。三ツ矢サイダー以外のサイダーは、ただの炭酸砂糖水であり、ましてエポロンサイダーなどという聞いた事のない無名サイダーをサイダーとして認めるわけにはいかなかった。
 私は露骨に嫌な目をしてそのサイダーを見つめた。が、しかし、その視線は、すぐさまその背後にある妻の股間に釘付けになった。
 気怠そうにサイダーを差し出す妻は、一昔前のヤンキーのように、だらしなくしゃがんでいた。
 M字に曲げた脚はムチムチだった。柔らかくも弾力性のある太ももの肉に挟まれた股の中心には、さっきまで食い込んでいた紫の下着がぺたりと張り付いていた。
 そのクロッチに怪しげなシミが円を描いていた。
 妻はきっと、あの記事を読んで濡れたのだと思うと、たちまち激しい嫉妬と性的興奮が、私の胸をギュッと鷲掴みしたのだった。

眠れ3

(つづく)

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